京都を舞台に、学生の成長と地域の活性化を同時に実現しようと奔走する一般社団法人「ひと&コト」。「ひととともに、まちとともに。」というビジョンを掲げる彼らの活動は、単なる課題解決にとどまりません。伝統文化、食、教育……一見バラバラに見える活動の根底にあるのは、「まちづくりは、ひとづくり」という強い信念と、メンバー一人ひとりの「やりたい」という熱量です。14年目を迎える団体で、彼らが、なぜ今「圧倒的当事者意識」を掲げて京都の未来を描くのか。その活動の深淵に迫りました。
プロフィール

あつしさん 一般社団法人「ひと&コト」代表理事。2012年、当時の京都の観光や行政のあり方に疑問を抱き団体を設立。「ひととしての成長」を軸に置いた独自のまちづくりを提唱している。
紅さん・ねねさん・ちろるさん ・わかばさん「ひと&コト」の運営を支える学生メンバーたち。プロジェクトリーダーや各部門を兼任し、自身の「やりたいこと」を形にしている。
インタビュアー CIL(Community Interaction Laboratory) 様々な団体さんにインタビューに行き、「団体さんと団体さん」、「団体さんと参加者さん」の架け橋になるような活動をしている。本Webサイトの運営団体。
「まちづくり」の根っこにあるのは「ひととしての成長」

――「ひと&コト」さんは2012年設立と、非常に歴史のある団体ですね。設立のきっかけを教えていただけますか?
あつし: 2012年当時の京都は、ブランドに頼りきった観光戦略やゴミの分別意識など、まちのあり方に多くの課題がありました。世界の観光都市と言いながら「これでいいのか」という疑問があったんです。そこで18歳からまちづくりに関わっていた僕が辿り着いた答えが、「まちづくりの根っこにあるのはひとづくりだ」ということでした。
――「ひとづくり」ですか。具体的にはどのような意味でしょうか?
あつし: 学生たちが活動を通じて成長し、当たり前のことを当たり前にできる「人間力」を高めていく。その学生の成長に合わせてまちも成長していくような形が作れたら面白いなと思ったんです。だから僕たちの活動は、まちの課題を解決するだけの「課題解決型」ではありません。
――と言うと、どのようなアプローチなのですか?
あつし: 僕たちが大切にしているのは「やりたいこと発信」です。普通のまちづくりは「観光客が少ないから呼ぶ」という『ねばならない』になりがちですが、それはしんどいじゃないですか。そうではなく、学生の「やりたいこと」を起点にして、それをやることでどんな社会課題が解決できるかを逆算して考えるんです。この「やりたい」という自発性こそが、継続のエネルギーになります。
「圧倒的当事者意識」で漕ぎ出す、一つの船
――行動指針(バリュー)にある「圧倒的当事者意識」という言葉は、非常に力強く、組織としての覚悟を感じます。ここにはどのような想いが込められているのでしょうか。
あつし: 僕たちは団体全体を一つの「船」に例えています。まず、メンバーが「船乗り」として乗船してきたとき、船長が「この方向へ進むよ」と指し示すのがビジョンです。そして、「そもそもなぜこの船を漕ぐんだっけ?」という理由の部分がミッションにあたります。
――その中で、バリュー(行動指針)はどのような役割を果たすのですか?
あつし: バリューは、いわば「船の漕ぎ方」です。船には色とりどりの個性を持ったひとたちが乗ってきますが、それぞれがバラバラに漕いでいては、船は最適解で進んでいきません。だからこそ、船の漕ぎ方をみんなで整えていくためにバリューを定めているんです。
――なるほど。数ある「漕ぎ方」の中でも、特に「当事者意識」にはどのような意味が込められているのでしょうか。
あつし: 僕たちの組織は、総務、広報、渉外、会計といった「部」と、複数の「プロジェクト」が同時並行で動いています。そうなると、つい「自分のプロジェクトさえ動けばいい」「あの部のことは自分には関係ない」という意識が生まれがちです。 しかし、僕たちは法人組織ですから、一部が止まれば全体も止まってしまう。だからこそ、「全部が自分たちのプロジェクトであり、全部が自分たちの部なんだ」という意識が必要なんです。
――そこに「圧倒的」という言葉を加えた理由は何でしょうか。
あつし: 「当事者意識」には明確な基準がありません。持っていないひとは持っていないことにすら気づかないし、持っているつもりのひとも、自分なりの低い基準で満足してしまうことがあります。 だからこそ、「当事者意識を持っています」という自己満足で終わるのではなく、「自分が思うゴールよりも、さらにその上を目指してほしい」。そんな、自らの限界を決めない姿勢を求めて「圧倒的」という言葉を添えています
「やりたい」から広がる三つの物語
「ひと&コト」では、この信念のもと、学生の「やりたい」を起点とした多様なプロジェクトが動いています。その中でも今回三つのプロジェクトについてお伺いしました。
①【みやこびより】倉庫で眠り続けてしまう浴衣に命を吹き込み、京都の「素顔」を歩く――伝統を日常の入り口に

――「みやこびより」は、和服でまちを歩くという京都らしい華やかな活動ですね。どのような想いが活動の根底にあるのでしょうか?
ねね: 私たちが一番に願っているのは、和服を成人式や結婚式といった「特別な日の衣装」ではなく、もっと「普段着」として身近に感じてほしいということです。一方で、今の京都は特定の有名な観光地だけにひとが集中してしまう「オーバーツーリズム(観光公害)」という深刻な課題を抱えています。伏見稲荷や清水寺にばかりひとが溢れ、京都の本当の良さが伝わりきっていない。そこで、「和服を着て、あまり知られていない穴場スポット(コアな京都)を歩く」という体験を、年に2回開催しています。
――ただ「和服で歩く」だけでなく、資源の循環という社会的な側面も非常にユニークですね。
あつし: 実は、レンタル浴衣の業界には意外な裏側があります。浴衣には流行り廃りがあり、シーズンが終わると倉庫が満杯になってしまうんです。その多くは、倉庫で眠ってしまう。 僕たちはそこに目をつけました。「倉庫で眠ってしまうはずの浴衣を譲り受け、イベント参加者にそのままプレゼントする」という仕組みを作ったんです。
――「倉庫で眠ってしまうはずの浴衣」が、参加者にとっては「文化への入り口」になるのですね。
あつし: そうなんです。伝統文化って、どうしても「難しそう」「お金がかかりそう」というイメージがありますよね。でも、浴衣なら慣れれば10分もかからずに着られます。 「浴衣がもらえる」「かわいいから着てみたい」というワクワク感を「フック」にして、まずは参加してもらう。そして実際に歩きながら、「ここはこんな歴史があるんだよ」「実は今、京都の観光はこういう問題を抱えているんだ」という本質的な話を伝えていく。伝統文化をただ「消費する」のではなく、自分たちで「纏(まと)う」体験を通じて、楽しみながら地域の課題を自分事として捉えてもらうことを大切にしています。
ねね: 参加者の方からは「次は親子で参加したい」といった声もいただいています。浴衣を持ち帰っていただくことで、イベント当日だけで終わらない、「もの」として残る繋がりをそれぞれの日常の中に広げていきたいと思っています。
②【おむすび家】形が変われば「見捨てられてしまう」野菜を、ひととひとを結ぶ「お宝」へ

――「食」をテーマにしたプロジェクト「おむすび家」について詳しく教えてください。単なるお弁当配布や食堂とは違う、独自のこだわりがあるようですが。
紅: 始まりは、プロジェクトリーダーの個人的な原体験でした。彼女自身が以前、「おかあさんが握ってくれたおむすび」に心身ともに救われた経験があり、「その温かな味を多くのひとに届け、食を通じて笑顔になってほしい」という想いからスタートしました。
――おかあさんの味が原点なのですね。そこからどうやって「まちづくり」へと繋がったのでしょうか。
紅: 食を考える中で、私たちは京都ならではの「規格外野菜(アップサイクル食材)」の問題に直面しました。京野菜はブランド価値が高い分、規格が非常に厳しいんです。味や栄養は全く変わらないのに、少し曲がっている、少し大きいというだけで見捨てられてしまう。
私たちは、まず農家さんに一軒一軒電話をかけるところから始め、信頼関係を築きました。今では、農家さんが抱えるお困りごとを直接伺い、その「お宝」である野菜を譲り受けてコミュニティ食堂のメニューに活用することで、「地元の資源を無駄にしない循環」を生み出しています。
――「コミュニティ食堂」では、具体的にどのような交流(結びつき)が生まれているのですか?
紅: 私たちが向き合っているのは、一人暮らしの学生や高齢者の方々の「孤食(こしょく)」という問題です。一人で食べればただの作業になりがちな食事も、みんなで囲めば「これ、おいしいね」「この野菜は何?」といった会話が生まれます。
また、子供たちの偏食(好き嫌い)をなくすユニークな工夫もしています。スーパーだと好きな具材だけを選んでしまいがちですが、食堂では「チョロQ」を使ったゲームをします。車が止まった場所にある具材を食べるというルールで、「食わず嫌い」を楽しみながら克服してもらう仕掛けです。親御さんからも「これなら食べる!」と喜ばれています。
――「おむすび」という形にこだわっているのも、何か理由があるのでしょうか?
紅: はい。実は「おむすび」という名称には、ひととひとを「結ぶ」という意味が込められています。さらに、機能面でも食品ロス削減に直結しているんです。
例えばお茶碗に盛られたご飯は、その場で食べきれなければ捨てられてしまいますよね。でも、「おむすび」という形にすれば、食べきれなかった分をそのまま持ち帰ることができます。「場所を選ばず、後でも食べられる」というおむすびの特性そのものが、最後まで食べ物を大切にするという私たちの姿勢を表しているんです
③【まちまなび】学校でも家庭でもない、子供たちが「自分」を学べる場所――“斜めの関係”が育む生きる力

――「まちまなび」というプロジェクト名には、単なる勉強会ではない、深い意味が込められているように感じます。どのような想いで活動されているのでしょうか?
ちろる: 私たちは、ここをテストの点数を上げるための場所にはしたくないんです。目指しているのは、子供たちの「サードプレイス(第三の居場所)」。 今、この地域では共働き世帯が増え、放課後を一人で過ごす「鍵っ子」が増加しています。また、地蔵盆などの地域行事が縮小し、子供たちが地域で大人と関わる機会も減っています。そんな中で、家庭でも学校でもない、子供たちが安心して自分らしくいられる場所を提供したいという想いから、月に一回、地域の交流センターでイベントを開催しています。
――具体的に、大学生である皆さんは子供たちとどのように接しているのですか?
ちろる: 象徴的なのが、夏休みの宿題をお手伝いする企画です。単に答えを教えるのではなく、大学生のスタッフが「なぜこれを調べてみようと思ったの?」「実際、あなたはどう思う?」と問いかけるようにしています。子供たちにとって、自分で調べたことをただ書き写すだけの作業を、「自分の考えを深めるプロセス」へと変えるお手伝いです。親でも先生でもない、大学生という「斜めの関係」だからこそ、子供たちも構えずに自分の内面をさらけ出せる。そんな対話を通じて、ひととどう関わっていくかを学んでほしいと思っています。
――地域の地理的な特徴を活かした「つながり」作りもされていると伺いました。
ちろる: はい、この地域は小学校が密集していて、実は「道一本挟んだ向かい側が違う学区」という場所なんです。普段は接点のない違う学校の子たちが、私たちのイベントで出会い、仲良くなって「次のイベントも一緒に行こう!」と約束して帰っていく。そんな「学校を超えた友達づくりのハブ」になれていることも、この場所で活動する大きな意味だと思っています。
――活動は、子供たちだけでなく親御さんにとっても支えになっているのではないでしょうか。
ちろる: そうありたいですね。例えば、人気の「バスボム(入浴剤)作り」などは、家でやると粉が飛んだり準備が大変だったりと、共働きの親御さんには負担が大きいものです。そこを私たちが引き受けることで、家庭の負担を減らしつつ、子供たちに最高の体験を届ける。 「スタッフの人に会いたいからまた行く!」という子供たちの声に応え続けることで、一過性のイベントではない、地域に根ざした「ひとづくり」の循環を作っていきたいです。
京都を「消費する場所」から「住み続けたい街」へ

――活動を通じて、最終的にどのような京都の未来を描いていますか?
あつし: 京都は大学生の比率が日本一高いまちですが、卒業すると多くが他県へ出てしまいます。僕たちの理想は、この子たちが活動を通じて京都を好きになり、卒業後も京都に残って家族を作って生活していくこと。10人に1人の大学生が京都に就職すれば、人口減少のスピードは確実に緩まり、まちはもっと住みやすくなります。
――学生メンバーの皆さんは、活動を通じて変化を感じていますか?
紅: 私は京都に引っ越してきて、最初は孤独感がありました。でも、ここで「地域のひとがあってこその私なんだ」と感じるようになり、みんなが楽しいと思える瞬間を作ることが、まちづくりに繋がるんだと実感しています。
ちろる: 私は高校3年生から参加していますが、やりたいことをベースに活動できるこの場所が大好きです。個人的な交流が増えることが、まちへの愛着に繋がっていくんだと感じています。
――最後に、今後の展望をお願いします。
あつし: 学生たちの一歩は小さなものかもしれません。でも、100人の学生がそれぞれ「やりたいこと」で一歩を踏み出せば、まちは必ず変わります。これからも「ひととともに、まちとともに」という想いを胸に、ひととまちが共に成長できる「船」を漕ぎ続けていきたいですね。
本記事は、一般社団法人「ひと&コト」へのインタビューをもとに構成しています。 ひと&コトでは、「やりたいこと」を形にしたい学生メンバーを随時募集中です。興味のある方は、ぜひSNSをチェックしてみてください。
